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インスペクション・カーに乗る(エンブシー・ボルトンアビーレイルウエイ) [イギリス(無用の用)]

 Inspection carと聞けば,誰もが,線路の検査をする車両ね,とか,ドクター・イエローみたいなやつね,とか思うに違いない。私も,それをインスペクション・カーと呼ぶとは知らなかった。エンブシー・ボルトンアビー鉄道のホームページにはもっとわかりやすい呼称「ダイレクター・サルーン」と記されている。要は,鉄道の上級の管理者や行政官が,巡回するときに使用した車両のことを意味している。真ん中に机を置けば,図書券を賭けての麻雀でもできそうな車両である。

 イギリスが階級社会の国だからなのか,それとも船乗り,軍隊,警察,鉄道と制服を着てする仕事は縦の関係をはっきりさせることが重要だからかわからないが,豪華な造りである。悪くないいすが置いてある。その時代の機関車は満足な屋根すらなかったことと比べると,同じ鉄道で使われる車両とは思えない。車内は,窓を背にソファーが並び,大きなガラスの窓を備えている。展望車のような車両といったら適切か。管理者は悠々と,機関士は吹きさらしの運転台で,である。

 検査に用いられるのかどうかわからないが,それらしきものは,直通ブレーキ管の圧力計だけである。発車が近づくと,機関車から送られた圧搾空気で圧力計の針が上昇する。もうすぐ発車だよ,と乗客の老夫婦が教えてくれた。蒸気機関車なんかに夢中になるのは子供だけでしょ,とか思いがちだが,この手の老夫婦はどこの鉄道にもいる。この場合,鉄道に対する理解の深さよりは,イギリス人の夫婦関係の方が興味深い。一般に女の人というものは,そんなに電車だの機関車だのに興味を示さない。「ま~,また汽車に乗るの,しょうがないわね。」みたいな会話があるのか否か。この件については,機会を得たらレポートしようと思う。

 小さな産業用(おそらく炭坑で使われていた)の機関車にひかれて出発する。この手の機関車は1960年ぐらいまで作られていたらしい。イギリスで保存鉄道というものがうまくいっている理由の一つに,比較的近年まで蒸気機関車が作られていたことがあげられるのではないか。そもそも割と状態のいい蒸気機関車が,割とお手頃価格で手に入りやすかっただろうし,部品の確保も容易で後のメインテナンスも楽だったのではないか。

 またこの鉄道もボランティアによって運営されている。ドアを開けてくれた(正確には,開けてくれようとしたが力が足りなかったので,他の人が手伝ってくれた)9歳だという男の子が,「僕はこの鉄道のスタッフだよ。」と胸を張る。保存鉄道では10代の子供がだぶだぶの制服やら蛍光色のベストを着て列車に乗っているのを見かける。ちなみに,ある鉄道のスタッフ曰く,16歳にならないとボイラを扱う機関車には乗れないという。

写真はくだんのダイレクターサルーンから。
P1010846.JPG

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